ユークリッド原論をどう読むか(14)
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ユークリッド原論
第10巻
□定義
<通約、有理、無理>
定義10ー1(通約)
同じ尺度によって割り切られる量は
通約できる量といわれ、
いかなる共通な尺度ももちえない量は
通約できない量といわれる。
-
割り切られる
とは、
尺度のちょうど何個分として、
測り切られる
ことである。
-
通約とは、
共通の尺度によって、
数による比をもつ
ということである。
もちろん、
今日の自然数による比
である。
-
公理1ー7(等しい)
により、
等しい線分は、
互いに他を他を測り切り、
倍量、約量は、
小さい方が大きい方を測り切る
から
定義10ー1(通約)
により、
通約できる。
(以下、命題の補足(定義10ー1)
(等しい、倍量、約量と通約)という。)
定義10ー2(平方において通約)
2つの線分は
それらの上の正方形が
同じ面積によって割り切られる
ときには、
平方において通約でき、
それらの上の正方形が
共通な尺度としていかなる面積をももちえない
ときには
[平方においても]通約できない。
-
面積とは
図形の大きさのことである。
(以下、定義10ー2の補足2
(面積)という。)
実質的な概念の初出は、
命題1ー35(平行四辺形の等積変形1)
による。
面積の計量の初出は、
命題6ー19(相似な三角形の比は辺の比の2乗)
による。
命題6ー25(作図.直線図形に等しく別の直線図形に相似)
により、
面積が正方形で表現できることになり、
定義10ー2(平方において通約)
において、
平方において通約
という定義にかかわって
面積という用語が登場し、
定義10ー4(面積の有理、無理、無理線分)
により、
定められた線分上の正方形と
通約な面積が有理である
という定義にいたる。
「2つの線分は
それらの上の正方形が
同じ面積によって割り切られる
ときには、
平方において通約」
という定義である
から、
定義7−19(平方数)の
「平方数とは
等しい数に等しい数をかけたもの」
という定義をふまえると、
単位線分上の正方形を
面積の単位とする方向性が
見通せる。
-
平方した上で、
定義10ー1(通約)における
通約となるもので、
平方しない状態では
通約ではない場合もある。
-
長さにおいて通約である線分
とは、
平方しないでも通約である線分
をいう。
(以下、定義10ー2の補足
(長さにおいて通約)という。)
-
原論において、
通約とは、
長さにおいて通約
を意味する。
しかし、
平方において通約
と敢えて区別する意味で、
長さにおいて通約という。
定義10ー3(有理、無理)
これらのことが仮定されると
次のことが証明される、
すなわち
定められた線分と
長さにおいて《のみ》[も]、
あるいは
平方において《も》[のみ]
通約できる[線分]
および
[平方においても]通約できない[線分
がそれぞれ]
無数《の線分が》[に]ある。
-
長さという表現が
定義1ー2(線)、
定義1ー5(面)
以降では、
初めて登場する。
-
命題10ー6の系3(作図.線分・面積で通約可の線分)、
命題10ー10(作図.長さ・平方において通約でない線分)
により、
長さにおいてのみ、
あるいは
平方においても
通約できる[線分]
および
[平方においても]通約できない[線分]
があることが証明され、
命題10ー15(通約量はその和・差とも通約)
命題10ー16(非通約量はその和・差とも非通約)
により
和は
任意の回数を
繰り返しとることができる
から
無数にあることがわかる。
-
命題10ー19助(有理線分と長さ・平方において通約、有理)
参照のこと。
そこで
定められた線分が有理とよばれる
とし、
それと長さと平方において、
あるいは
平方においてのみ
通約できる線分が有理
[とよばれ]、
それと[平方においても]通約できない線分が無理
とよばれる
とせよ。
-
有理線分とは
有理な線分のこと
であり、
最初に指定された有理な線分、
特に、数を扱う場合は単位となる線分
と
長さにおいて、
または
平方において通約できる線分である。
(以下、定義10ー3の補足
(有理線分)という。)
-
任意の有理線分は
以下により、
作図される。
(以下、命題の補足2(定義10ー3)
(作図.任意の有理線分)という。)
公準1ー1の補足2(作図.任意の線分)
により
定められた有理線分Uをとる。
命題10ー6の系3(作図.長さ・平方で通約可の線分)
により
Uと長さにおいて通約できる線分をとる、
または、
命題10ー10(作図.長さのみ・平方でも通約できない線分)
により
Uと平方においてのみ通約できる線分をとる。
-
例えば
単位とする線分(1)を有理
とすると、
有理線分、すなわち、
長さと平方の両方において有理な線分(有理数)と、
平方においてのみ有理な線分(sqrt(有理数))があり
これに対し、
無理な線分(π+有理数)と
が無数にある
ということである。
-
原論においては、
単位を有理
とすれば、
無理とは、
今日的に言えば、
平方しても無理数である
ということである。
定義10ー4(面積の有理、無理、無理線分)
そして
定められた線分上の正方形が有理、
それと通約できる面積が有理、
それと通約できない面積が無理
とよばれ、
そして
これら無理面積に等しい正方形の辺が無理
とよばれるとせよ、
すなわち
無理面積が正方形である
ならば、
辺そのものが、
また
何か他の直線図形である
ならば、
それに等しい正方形の辺が、
無理線分である。
-
原論において、
無理線分とは、
平方においても無理な線分
のことである。
無理線分でない線分は、
平方において有理
であり、
そのなかには、
長さにおいて有理なものもある
ということである。
-
有理な面積(指定された線分[通例は単位となる線分]の上の正方形)が有理面積とよばれ、
有理面積と通約できる面積も
有理面積とよばれる。
定められた線分と有理線分は
平方において通約である
から
有理線分を辺とする正方形は
有理面積となる。
有理面積と通約できない面積が
無理面積である。
(以下、定義10ー4の補足
(有理面積、無理面積)という。)
-
定められた線分と有理線分は
平方において通約である
から
命題1−46(作図.線分上に正方形)
により
有理線分を辺とする正方形をつくると、
有理面積となる。
(以下、命題の補足2(定義10ー4)
(作図.有理面積の正方形)という。)
逆に、
有理面積の正方形の辺は、
有理線分となる。
(以下、命題の補足3(定義10ー4)
(有理面積正方形の辺は有理線分)という)
なぜなら
定義10ー4(面積の有理、無理、無理線分)
により、
有理線分を辺とする正方形は有理面積
であって、
有理面積の正方形は、
有理線分を辺とする正方形と通約
である。
命題6ー20(相似多角形の相似三角形分解と2乗の比)
により、
正方形の辺の平方と面積は比例する。
前節、前々節、
命題10ー11(4量比例で一方が通約なら他方も通約)
により、
有理面積の正方形の辺は、
有理線分と平方において通約できる
こととなり、
定義10ー3の補足(有理線分)
により、
有理線分
となるから。
-
そもそも
有理とは、
数による比がある、
つまり
有比
ということである。
無理とは、
数による比がない、
つまり
無比
ということである。
原論においては、
有理、無理は、
面積に基礎をおいており、
そこから
線分に溯って、
線分の有理、無理が言及され、
再度、面積に移って、
中項面積が規定され、
さらに線分に移って、
中項線分が規定される
という構造にある。
U:指定された線分
とすると、
有理面積:∩sq(_U)
となっていて、
sq(_A):有理面積
となるとき、
A:有理線分
となる。
任意の有理線分A、Bにおいては、
A∩B(同時にA∩^2B)、
A∩^^2B
のいずれかである。
命題10ー9の系2(長さで通約なら平方で通約)という。)
参照のこと。
A、B:有理線分、
A∩^^2B
のとき、
rec(A、B)は、
命題10ー21(平方のみ通約可の有理線分の矩形と無理面積・無理線分)
にあるとおり、
無理面積である
が、
有理線分から構成される
特別な無理面積である
ので、
定義の補足2(命題10ー23)(中項面積)
にあるとおり、
中項面積とよばれる。
sq(_C):中項面積
となるとき、
C:中項線分
とよばれる。
A、B:有理線分、
A∩^^2B、
sq(_C)=rec(A、B)
のとき、
C:中項線分
となるが、
C:A、Bの等比中項
となっているからであろう。
中項線分は、
無理線分であるが、
有理線分から構成される
特別な無理線分である。
任意の中項線分A、Bの通約関係は、
A∩B(同時にA∩^2B)、
A∩^^2B、
A¬∩^2B
のいずれかとなっている。
-
命題の補足(定義10ー1) (等しい、倍量、約量と通約)
-
命題の補足2(定義10ー3) (作図.任意の有理線分)
-
命題の補足3(定義10ー4) (有理面積正方形の辺は有理線分)
-
命題の補足3(定義10ー4) (有理面積正方形の辺は有理線分)
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