ユークリッド原論をどう読むか(9)
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ユークリッド原論
第5巻
□定義
<約量・倍量>
定義5ー1(約量)
小さい量は、
大きい量を割り切るときに、
大きい量の約量である。
- 小さいは、公理1ー8の補足
による。
-
量とは、その何らかの大きさのものでもって、
何個分と量りうるものである。
この何らかの大きさのものは、
単位とよばれる。
(以下、定義5ー1の補足(量)
という)
- 原論においては、
個数の表現において用いられる
自然数のみが
数である。
- 大きいは、公理1ー8
による。
-
割り切るとは、
対象とする量を量る量で
過不足なく、
何個分と量りきる
ということである。
AがBを割り切るとき
A|Bと示す。
(以下、定義5ー1の補足2(割り切る)
という)
-
割るとは、
対象とする量を
量る量で何個分と
量れる限り量ることである。
量る量より小さい量が
量り切られずに残ることがある。
量った結果の何個分が第7巻にいう
商である。
(以下、定義5ー1の補足4(割る)
という)
-
命題6ー9
までは、
線分で示された量の約量を
作図することができない。
倍量を作図することで、
命題を論証している。
(以下、コメント3(定義5ー1)
(約量の作図はまだ)という。)
命題5ー15
参照のこと。
-
公理1ー3(等しいものから等しいものをひく)
により、
等しい量を
等しい量で割った
結果は等しい。
(以下、公理の補足5(定義5ー1)
(等を等で割る)という。)
定義5ー2(倍量)
そして
大きい量は、
小さい量によって割り切られるときに、
小さい量の倍量である。
- 倍量と約量とは対になっている。
-
線分で示された量の倍量の作図は
公準1ー2により
線分を十分に延長し、
命題1ー3の補足により、
最初の線分に等しい線分を
必要な回数だけ、
端点をあわせ継ぎ足して
取っていけばよい。
(以下、命題の補足(定義5ー2)(作図.倍量)という。)
<比・比例>
定義5ー3(比)
比とは
同種の2つの量の間の大きさに関する
ある種の関係である。
- 大きさという用語が
ここに初めて登場する。
- 同種のは、
量る、量られることが
できるということである。
量り切ることができない、
すなわち、
割り切ることができない
場合も
含めて表現している。
定義5ー4(比をもつ)
何倍かされて
互いに他より大きくなりうる2量は
相互に比をもつ
といわれる。
- 公準1ー2の補足(アルキメデスの原理)が基礎にある。
- 定義の補足(公理1ー5)
の通り、
何倍かするとは、
個数分の和(自然数倍)を想定している。
- 比をもつ2量は、
定義5ー3
により、
同種の量である。
- 相互に比をもつとは、
一方の、
他方に対する比が定まる
ということである。
- 割り切る、割り切られるという場合以外、
例えば
正方形の1辺と対角線という場合
(今日でいう無理数倍)
も想定しているので、
こういう表現になる。
- 正方形の1辺と対角線の場合は、
対角線は、
そのまま、
すなわち1倍で、
1辺より大きく、
1辺は
2倍されると
対角線より大きくなる。
√2倍したらよいという議論は
そもそも前提から外れている。
定義5ー5(同じ比)
第1の量と第3の量の同数倍が
第2の量と第4の量の同数倍に対して、
何倍されようと、同順にとられたとき、
それぞれ
共に大きいか、共に等しいか、
または共に小さいとき、
第1の量は
第2の量に対して
第3の量が第4の量に対すると
同じ比にある
といわれる。
-
同数倍とは、
倍は定義の補足(公理1ー5)によるので、
同じ個数分の和(同じ自然数倍)のことである。
(以下、定義5ー5の補足(同数倍)
という)
- 同順とは、
比と同じ順において比較する
ということである。
すなわち、
それぞれ同数倍された、
第1・第3と、第2・第4について、
第1と第2、第3と第4を比較する
ということである。
- 等しいは、公理1ー7
による。
- 正方形の対角線を1辺とする、
新たな正方形をつくり、
前者の正方形の1辺aが
その対角線bに対してもつ比と、
後者の正方形の1辺cが
その対角線dに対してもつ比については、
次のように考えることになる。
a、cの14倍は
b、dの10倍より同時に小さく、
a、cの15倍は
b、dの10倍より同時に大きい。
以下、
141倍と100倍、
142倍と100倍、
1414倍と1000倍、
1415倍と1000倍
・・・
としてみると、
ともに等しい場合はないが、
大きいときはともに大きく、
小さいときはともに小さいので、
aはbに対して、
cがdに対するのと同じ比にある
とする。
- 量については
等しいと表現するが、
比については
等しいとはいわず
同じと表現している。
-
定義5ー5の補足 、
公理1ー5の補足2
により
等しいものの同数倍は等しく、
公理1ー6の補足3
により
等しいものの同数等分は等しい
ので、
約量に等しいものは約量であり、
倍量に等しいものは倍量であり、
等しいものの約量は約量であり、
等しいものの倍量は倍量である。
(以下、公理の補足2(定義5ー5)(約倍量に等しいものは約倍量など)という。)
この補足
により
約量・倍量に関して
代入することができる
(以下、公理の補足3(定義5ー5)
(約量(倍量)での代入の原理)という。)
定義5ー6(比例)
同じ比をもつ《2》[いくつかの]量は
比例する
といわれる
とせよ。
- 定義5ー3
により、
比は2量の関係である。
同じ比をもつとは、
2量の関係が2つ以上あって、
その比が同じということである。
-
今日で言う
比例式の表現を想定していない。
a、b、cという量の列があり、
【・・・(1)】
aがbに対して、
bがcに対すると同じ比にあるとき、
「aとb」と「bとc」とは比例する
ということにしようということである。
定義5ー7(大きい比)
[定義5ー5
のように]同数倍された量のうち、
第1の量の倍量が
第2の量の倍量より大きいが、
第3の量の倍量が第4の量の倍量より大きくないとき、
第1の量は
第2の量に対して
第3の量が第4の量に対するより
大きい比をもつ
といわれる。
-
逆に、
定義5ー5
のように
同数倍された量のうち、
第1の量の倍量が
第2の量の倍量より小さいが、
第3の量の倍量が第4の量の倍量より小さくないとき、
第1の量は
第2の量に対して
第3の量が第4の量に対するより
小さい比をもつ
といわれる。
(以下、定義5ー7の補足(小さい比)
という)
-
比の大小の定義に矛盾が生じないことは
次により証明される。
ある倍数(個数)m、m’があって、
mA>m’BかつmC<=m’D
また、
ある倍数n、n’があって、
nC>n’DかつnA<=n’B
となることはない。
(以下、命題の補足2(定義5ー7)
(比の大小の定義の無矛盾性)という)
背理法の仮定として、
そのようなm、m’、n、n’があったとする。
定義の補足(公理1ー5)(同じもののn倍) 、
公理1ー4の補足3(大きい(小さい)ものどうしを加える)
により
mnA>m’nBかつmnC<=m’nD
また
mnA<=mn’BかつmnC>mn’D
となる。
mnA>m’nBであり
mnA<=mn’Bであるから、
公理1ー8の補足3(大きい・小さいものより大きい・小さい)
により
m’nB<mn’Bとなり、
m’n<mn’となる。【・・・(1)】
同様にして
mn’D<m’nDとなり、
mn’<m’nとなる。【・・・(2)】
(1)(2)、
公理1ー8の補足3(大きい・小さいものより大きい・
小さい)
により
m’n<mn’<m’n
となるが、これは不可能である。
背理法により、
命題の補足のm、m’、n、n’は存在しないことが
証明された。
これにより、
比の大小の定義に
矛盾が生じないことがわかる。
-
定義5ー5(同じ比)、
定義5ー7(大きい比)、
定義5ー7の補足(小さい比)
命題の補足2(定義5ー7)(比の大小の定義の無矛盾性)
により、
比は、
他の比に対して、
同じ
か
大きい
か
小さい。
(以下、公理の補足3(定義5ー7)
(比は等か大か小)という。)
定義5ー8(比例は3項以上)
比例は
少なくとも3つの項をもつ。
-
(比例)項とは、
量の列における
要素のことである。
3つの項の場合は、
定義5ー6・・・(1)
のような1つの列である。
4つの項の場合は、
「aがbに対するように、
cがdに対する。」
となるが、
a,bという列とC,Dという列の
2つの列を考えている。
(以下、定義5ー8の補足((比例)項)という)
定義5ー9(2乗の比)
3つの量が比例するとき、
第1の量は
第3の量に対して
第2の量に対する比の
2乗の比をもつ
といわれる。
- 3つの量は、
a、b、cのような量の列である。
- 1辺aの正方形の対角線bを1辺とする、
新たな正方形をつくり、
その対角線cとして、
a、b、cという量の列は比例している。
今日的には、
a:b=b:c=√(2)
であるとき
a:c=2
ということであるが、
原論の立場では
√(2)は数とは見なしていない。
原論は√(2)を数と見なさず、
比例論を展開していくのである。
<いろいろな比>
定義5ー10(3乗の比)
4つの量が比例するとき、
第1の量は
第4の量に対して
第2の量に対する比の
3乗の比をもつ
といわれる。
そして
何個の量が比例しようと
常に
つぎつぎに同様である。
- ここにいう4つの量は、
a、b、c、dのような1つの量の列である。
定義5ー11(対応する量)
[比例において]前項は前項に対し、
後項は後項に対し
対応する量
と呼ばれる。
-
前項とは、
比を考えるときの前項である。
すなわち、
aのbに対する比という場合の
aのことである。
いわゆる、
比べられる量のことである。
(以下、定義5ー11の補足(前項)
という)
-
後項とは、
比を考えるときの後項である。
すなわち、
aのbに対する比という場合の
bのことである。
いわゆる、
基になる量のことである。
(以下、定義5ー11の補足2(後項)
という)
定義5ー12(錯比)
[比例において]錯比とは
前項に対し前項[の比]を、
後項に対し後項[の比]を
とることである。
- 原論においては、
錯比を考え得るのは、
2つの量の列が、
同一の量である場合に限られる。
長さの面積に対する比というものは
想定されていない。
-
中村他訳の原論においては、
いれかえる
という表現で
錯比を意味する
も場合と、
乱比例を意味する
場合がある。
どちらも
「いれかえて」と
同じ動詞で表現されているが
Euclid's Elements
(Clark University Professor D.E.Joyceの
http://aleph0.clarku.edu/~djoyce/java/elements/elements.html)
においては、
錯比は、
they are also proportional alternately
というように表現され、
乱比例は、
the proportion of them is perturbed
というように表現され、
明確に区別される。
(以下、コメント(定義5ー12)(いれかえる)という。)
- aに対しbの比をとるは、
定義5ー4
により、
bがaに対してもつ比を
考えることである。
定義5ー13(逆比)
逆比とは
後項を前項とし、
前項を後項として
とることである。
- 後項の、
前項に対する比を考えることである。
- 錯比のように、
比例において考えているのではない。
定義5ー14(比の複合・合比) 比の複合とは
前項と後項との和を
後項そのものに対して
とることである。
- 合比ともいう。
- 前項と後項との和の、
後項に対する比を考えることである。
-
線分で示された量の和の作図は
公準1ー2により
加えられる量の線分を十分に延長し、
命題1ー3の補足により、
加える線分に等しい線分を
端点をあわせ継ぎ足せばよい
(以下、命題の補足(定義5ー14)
(作図.量の和)という。)
定義5ー15(比の分割・分割比)
比の分割とは
前項と後項の差を
後項そのものに対して
とることである。
- 分割比ともいう。
- 前項と後項との差の、
後項に対する比を考えることである。
-
線分で示された量の差の作図は
差し引かれる量の線分から、
命題1ー3の補足により、
差し引く線分に等しい線分を
端点をあわせ引き去ればよい
(以下、命題の補足(定義5ー15)
(作図.量の差)という。)
定義5ー16(比の反転)
比の反転とは
前項を
前項と後項の差に対して
とることである。
- 前項の、
前項と後項との差に対する
比を考えることである。
定義5ー17(等間隔比)
等間隔比とは
いくつかの量と、
それと同じ個数で、
かつ
2個ずつとられるとき、
同じ比をなす
他の量とがあり、
第1の量において
初項が末項に対するように、
第2の量において
初項が末項に対する場合である。
いいかえれば
内項をぬかして
外項をとることである。
- 個数という表現が
ここで初めて登場する。
個数
とは、
1個、2個と
数えることができる
量における大きさである。
(以下、定義5ー17の補足(個数)という。)
- 項数が同じである
2つの量の列が
考えられている。
- 2つの量の列において、
対応する2個づつの項は
同じ比をなしている。
- 初項の、
末項に対する比が
同じであるということである。
- 例えば、
第1の量の列が
1、2、6、3
第2の量の列が
2、4、12、6
となる場合である。
定義5ー18(乱比例)
乱比例とは
3つの量と
それらと同じ個数の
他の量とがあり、
[最初の比例では、]
第1の量において
前項が次項に対するように、
第2の量において
前項が次項に対し、
[次の比例では、]
第1の量において
[最初の比例の]次項が第3項に対するように、
第2の量において
第3項が[最初の比例の]前項に対する場合である。
- 項数が3である量の列が2つ考えられている。
- 乱比例について述べていると考えられる
命題5ー21
、23
においては、
A、B、Cという量と
D、E、Fという量において、
A:B=E:F、B:C=D:E
という場合を扱っている。
これから考えると、
最初の比例において、
第1の量では前項Aと後項B、
第2の量では前項Eと後項F、
次の比例においては、
最初の比例に登場したものを受けて、
第1の量では後項Bと第3の項C、
第2の量では第3の項Dと前項E、
という意味であろう。
確かに、「いれかわっている」。
以上の意味になるように、少し本文を補足してある。
- 例えば、
第1の量の列が
1、2、3
第2の量の列が
2、3、6
となる場合である。
- 「いれかえる」は、
コメント(定義5ー12)参照のこと。
-
命題の補足(定義5ー2)(作図.倍量)
-
命題の補足2(定義5ー7) (比の大小の定義の無矛盾性)
-
命題の補足(定義5ー14) (作図.量の和)
-
命題の補足(定義5ー15) (作図.量の差)
前提 | 作図 | 推論 |
定義 |
|
|
公準 |
|
|
公理 |
|
|
命題 |
1-3補
|
|
その他 |
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