ユークリッド原論をどう読むか(9)
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(9)はじめに

今回は、第5巻である。
この巻で扱う内容の中心は、
比、比例である。
原論では、
 個数として表現される
  自然数だけを
 数として認める立場である。
それ以外は
 量として扱う。
量と量との関係として
 比が導入され、
 比の相等、大小が
 自然数だけをもって定義される。
さらに
 比が同じであることから比例が導入される。
比例の表現は、
 今日の比例式ではなく、
 量の列において行われる。

現代の算数数学教育を受けた者にすれば、
 比も数(実数)であって、
 数直線上の点(量=線分の長さ)と
  同一であると見なす
 ことに何の躊躇も感じない。
しかし、原論においては、許されない。
もってまわった表現となっているが、
 それがむしろ現代代数学に近いものとなっている。
事実、
 デーデキントの切断による実数の定義は、
 原論のこの部分の創造的継承であると
 論じられることが多い。
次に、
 定義5ー18 の乱比例について、一言触れておく。
定義では、
「3つの量と
 それらと同じ個数の
  他の量とがあり、
 第1の量において
  前項が次項に対するように、
 第2の量において
  前項が次項に対し、
 第1の量において
  次項が第3項に対するように、
 第2の量において
  第3項が前項に対する場合である。」
となっている。
この前項と次項の意味がとりにくい。
乱比例に関わる命題と考えられる
 命題5ー21 5ー23 では、
 A、B、Cという量と
 D、E、Fという量において、
 A:B=E:F、B:C=D:E
 という場合を扱っている。
これから考えると、
 最初の比例において、
 第1の量では前項Aと後項B、
 第2の量では前項Eと後項F、
 次の比例においては、
 最初の比例に登場したものを受けて、
 第1の量では後項Bと第3の項C、
 第2の量では第3の項Dと前項E、
 という意味であろう。
とすれば、
 3つの量と
 それらと同じ個数の
  他の量とがあり、
 [最初の比例では、]
 第1の量において
  前項が次項に対するように、
 第2の量において
  前項が次項に対し、
 [次の比例では、]
 第1の量において
 [最初の比例の]次項が第3項に対するように、
 第2の量において
  第3項が[最初の比例の]前項に対する場合である。
と補うのが正しいと思われる。
なお、「いれかえる」という表現が、
 錯比を扱う命題5ー16 においても、
 乱比例を扱う命題5ー21 5ー23 においても
それぞれを特徴づける表現として登場する。
混乱しないようにされたい。

最後に、命題5ー8 に触れておく。
よく読んでいただくと理解していただけるだろうが、
 推論は、形式的には、
 AEとEBのどちらが大きいかで、
 場合分けされている。
しかし、
 ポイントは、
 AEを何倍かして
 Dより大きくなることにある。
場合分けは全く必要がない。
推論が錯綜し、
 他の準一般的な証明では、
  具体的数値の記載は避けられているのに、
 この命題だけ具体的数値が記述されている。
古来の注釈文が
 紛れ込んでいるのではないかと考えられる。
すなわち、
 原論では、
 任意の自然数に関する命題を
 典型的な例として、
 2個、3個の場合でもって
 証明している。
一般的な証明とはなっていない。
ただ、
 証明の過程は、一般的に通用するように、
 具体的な個数をあげていない。
自然数をnなどの文字を用いずに、
 線分図を用いて証明しているので、
 図を描く必要上
 こうなったのではないかと考えられる。

以上、いくつかのポイントに絞って、
 理解しやすくするために、コメントした。

なお、
 本文を読むに当たって、
 次のことに留意いただきたい。
 第5巻にあたり、繰り返しておく。
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