ユークリッド原論をどう読むか(11)
頁末
前
次
目次
ユークリッド原論
第7巻
命題7ー36(構成.3数の最小公倍数)
(3数の最小公倍数は3数の公倍数を割り切る)
(任意個の数の最小公倍数)
3つの数が与えられた
とき、
それらが割り切る最小の数を見いだす
こと。

与えられた3数を
A、B、C
とせよ。
このとき
それらが割り切る最小の数を
見いださねばならぬ。
2数A、Bによって
割り切られる最小の数Dがとられた
とせよ。
[......(a)]
-
命題7ー34(2数の最小公倍数)
による。
-
最小公倍数D(A,B)
をとっている。
-
A|D、B|Dとなっている。
そうすれば
Cは
Dを割り切るか
あるいは
割り切らないか
である。
まず
割り切るとせよ。
ところが
A、Bも
Dを割り切る。
それゆえ
A、B、Cは
Dを割り切る。
-
前節、前々節による。
-
(A、B、C)|D
となっている。
また
最小でもある
と主張する。
もし
最小でないならば、
A、B、Cは
Dより小さい数を割り切る
であろう。
[Dより小さい]Eを割り切る
とせよ。
-
背理法の仮定である。
-
数E[;;<D,(A、B、C)|E)となっている。
A、B、CがEを割り切る
から、
A、BもEを割り切る。
それゆえ
A、Bに割り切られる最小の数も
Eを割り切る
であろう。
ところが
Dは
A、Bに割り切られる最小の数である。
ゆえに
DがEを割り切る、
すなわち
大きい数が小さい数を割り切ることになる
であろう。
これは不可能である。
したがって
A、B、CはDより小さい
いかなる数をも割り切らない
であろう。
よってDは
A、B、Cが割り切る最小の数である。
D;最小公倍数(A,B,C)
となっている。

次に.
CがDを割り切らない
とし、
C、Dに割り切られる
最小の数Eがとられた
とせよ。
[......(b)]
-
命題7ー34(2数の最小公倍数)
による。
-
最小公倍数E(C,D)
をとっている。
A、Bは
Dを割り切り、
DはEを割り切る
-
(a)、前節による。
-
(A,B)|D、
D|E
となっている。
から、
A、BもEを割り切る。
ところが
CもEを割り切る。
それゆえ
A、B、CもEを割り切る。
-
(b)以降、
ここまでで、
次のことが分かる。
3つの数の公約数は、
その最大公約数を割り切る
(以下、命題7ー36の補足2(3数の最小公倍数は3数の公倍数を割り切る)という。)
-
(A、B、C)|E
となっている。
また
最小でもある
と主張する。
もし
最小でない
ならば、
A、B、Cは
Eより小さいある数を割り切る
であろう。
[Eより小さい]Fを割り切る
とせよ。
-
背理法の仮定である。
-
数F[;;<E,(A、B、C)|E)
となっている。
A、B、CはFを割り切るから、
A、BもFを割り切る。
ゆえに
A、Bに割り切られる最小の数も
Fを割り切る
であろう。
ところが
DがA、Bに割り切られる最小の数である。
-
(a)による。
-
D;最小公倍数(A,B)
となっている。
したがって
DはFを割り切る。
ところが
CもFを割り切る。
それゆえ
D、CはFを割り切る。
-
前節、前々節による。
-
(D、C)|F
となっている。
ゆえに
D、Cに割り切られる最小の数も
Fを割り切る
であろう。
ところが
EがC、Dに割り切られる最小の数である。
-
(b)による。
-
E;最小公倍数(C,D)
となっている。
したがって
Eは《D》[F]を割り切る、
すなわち
大きい数が小さい数を割り切る。
これは不可能である。
それゆえ
A、B、Cは
Eより小さいいかなる数をも割り切らない
であろう。
よって
EはA、B、Cに割り切られる最小の数である。
よって
[C、Dについての2つの場合の結果から
A、B、Cに割り切られる最小の数が見いだされる。]
これが証明すべきことであった。
-
2数の最小公倍数と第3の数との
最小数公倍数をとる
という操作を振り返れ
ば、
次のことがわかる。
任意のn個の数
A、B1、…、Bn-1の
最小公倍数は、
最小公倍数D1(A,B1)
として、
最小公倍数Di(Di-1,Bi)
を逐次とって得られる
Dn-1
であり、
最小公倍数Dn-1は、
任意の公倍数
を割り切る。
(以下、命題7ー36の補足
(構成.任意個の数の最小公倍数・公倍数)という。)
命題7ー36(構成.3数の最小公倍数)
により、
D2;=最小公倍数(A,B1,B2)
となっている。
命題7ー35(最小公倍数は公倍数を割り切る)
により、
D2|公倍数[A,B1,B2]
となっている。
......(101)
帰納法の仮定として、
Di;=最小公倍数(A,B1,…,Bi)、
Di|公倍数(A,B1,…,Bi)
となっており、
命題7ー34(構成.2数の最小公倍数)
により
最小公倍数Di+1(Di,Bi+1)
をとる。
Di+1;(Di、Bi+1)|Di+1、
(A、B1、…、Bi)|Di、
命題7−1の補足(倍数の倍数、約数の約数)
により、
Di+1;公倍数[A,B1,…,Bi,Bi+1]
となっている。
背理法の仮定として、
公倍数E[A、B1、…、Bi、Bi+1;;<Di+1]
が存在したとしたら、
E;(A、B1、…、Bi)|E
となり、
(101)により、
E;Di|E
となっているので、
E;(Di、Bi+1)|E
すなわち
E;Di+1|E
となり、
命題の補足(定義7ー3)(割り切る数は小さい)
により、
E;>Di+1
となって、
背理法の仮定と矛盾する。
よって、
Di+1;最小公倍数(A、B1、…、Bi、Bi+1)
となる。
また、
公倍数F[A,B1,…,Bi,Bi+1]
は、
F;(A、B1、…、Bi)|F、
F;(Di,Bi+1)|F
となるので、
命題7ー35(最小公倍数は公倍数を割り切る)
により、
公倍数F;最小公倍数Di+1|F
となる。
なお、
以上の証明は、
数学的帰納法である。
命題7ー36(構成.3数の最小公倍数)が、
任意個の数の最小公倍数を求めることを、
3個の数の場合を示して
準一般的に証明しているのではなく、
3個の場合と明示して証明している
ことから、
ユークリッドの時代には
準一般的な証明に帰することができない
数学的帰納法の必要となる背景は意識されていた
と判断できよう。
-
「互いに素による場合分け」は、
コメント4(命題7ー3)
参照のこと。
- 命題7ー36は、
数A、B、C
について、
最小公倍数D(A,B)、
最小公倍数E(D,C)
をとれば、
E;最小公倍数(A,B,C)
のことである。
-
命題7ー36の補足 (構成.任意個の数の最小公倍数・公倍数)
-
命題7ー36の補足2(3数の最小公倍数は3数の公倍数を割り切る)
- 命題7ー36は構成用命題である。
前
次
目次
頁頭