ユークリッド原論をどう読むか(3)
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ユークリッド原論
第1巻
命題1ー31(作図・平行線)
(与点を通る平行線は唯一)
(交線の垂線)
与えられた点を通り、
与えられた直線に平行線をひくこと。
与えられた点をA、
与えられた直線をBCとせよ。
このとき
点Aを通り直線BCに平行線を
引かねばならぬ。
BC上に任意の点Dがとられ、
- 公準1ー1の補足(作図.任意の点をとる)
による。
-
点D[BC]
をとっている。
ADが結ばれたとせよ。
- 公準1ー1(作図.直線)
による。
-
線分(A,D)
をとっている。
そして
直線ADに対して
その上の点Aにおいて
角ADCに等しい角DAEが作られたとせよ。
【・・・(a)】
- 命題1ー23(作図・直線上に指定された角)
による。
-
点E[∠DAE=∠ADC,ADについてCと反対側]、
半直線(A,E)
をとっている。
そして
直線AFが
EAと一直線をなして
延長されたとせよ。
- 公準1ー2(作図.直線の延長)
による。
-
点F[延長EA]、
半直線(A,F)
をとっている。
そうすれば
直線ADが
2直線BC、EFに交わり
錯角EAD、ADCを互いに等しくしたから、
- (a)
による。
-
AD╂(BC、EF)、
∠EAD=∠ADC
となっている。
EAFはBCに平行である。
- 命題1ー27(錯角と平行)
による。
-
直線EAF‖BC
となっている。
よって
与えられた点Aを通り、
与えられた直線BCに
平行な直線EAFがひかれた。
これが作図すべきものであった。
- 命題1ー31(作図・平行線)
の証明を振り返ると、
公準1ー5(平行線公準)
(命題1ー29(平行と錯角、内対角、同側内角)、
命題1ー30(平行の平行)、
命題1ー30の補足(交線に平行な線)
)
を前提としていない。
点Aと直線BCについて、
直線BC上の点Dを決めたとき、
錯角の等しい平行線を引くことができる
というものである。
あるいは、
平行線が一つはある
というものである。
そこで、
次の疑問が生じる。
@直線BC上の別の点Gを決めたとき、
錯角の等しい平行線を
ひくことができるが、
この平行線は
点Dを決めたときの平行線と同一か。
Aこれ以外に平行線はないか。
公準1ー5(平行線公準)
を前提とすると、
@Aが肯定的に解決される。
@については、
命題1ー32(三角形の内対角・内角の和)
を参照されたい。
Aについては、
次の解説を参照されたい。
- 公準1ー5(平行線公準)
を前提とすると、
この命題1ー31(作図・平行線)
に
平行線が唯一であることを
付け加えることができる。
すなわち、
与えられた点を通り、
与えられた直線に平行線をひくことができる。
平行線は唯一これだけである。
(以下、命題1ー31の補足(与点を通る平行線は唯一)という。)
背理法の仮定として、
もし
点Aを通り直線BCに平行な直線が
EF以外にGHがあるとする。
背理法の仮定により
EFとGHは点Aで交わる、
異なる直線である。
命題の仮定により
BCとEFは平行である。
命題1ー30の補足(交線に平行な線)
により
BCとGHは交わる。
ところが
背理法の仮定により
BCとGHは平行であるから、
矛盾となる。
背理法により
EFとGHは一致する。
公準1ー5(平行線公準)
を前提とする原論の命題としては、
この補足の方が
命題としては望ましいと考えられる。
- 命題1ー31の補足(与点を通る平行線は唯一)
から
公準1ー5(平行線公準)
を導くことができる。
2直線AB、CDに直線EFが
2点G、Hでそれぞれ交わっており、
角BGH、GHDの同側内角の和が
2直角より小さいものとする。
Gを通り
CDに平行な直線KLを、
命題1ー31(作図・平行線)
により、
錯角GHCとLGHが等しくなるように、
したがって
角LGHと角GHDの和が
2直角となるように、
描く。
今、
角BGHと角GHDの和は
2直角より小さいので、
公理1ー4の補足2(不等なものから等しいものをひく)
により
角LGHより角BGHは小さい。
したがって
2直線AB、KLは
点Gで交わる異なる直線であり、
半直線GBは
直線KLについて直線CDと同じ側に、
半直線GAは
反対側にある。
KLは、
命題1ー31の補足(与点を通る平行線は唯一)
により、
Gを通るCDの唯一の平行線であるから、
ABはCDと交わり、
しかも、
半直線GBが直線KLについて
直線CDと同じ側にあるので、
同側内角の和が
2直角より小さい側で交わる。
よって
公準1ー5(平行線公準)
が成立する。
- 公準1ー5(平行線公準)
と命題1ー31の補足(与点を通る平行線は唯一)
は同値である。
- 命題1ー31の補足(与点を通る平行線は唯一)
から、
命題1ー30の補足(交線に平行な線)
を導くことができる。
点Eを通りFGに平行な直線は、
命題1ー31の補足(与点を通る平行線は唯一)
により
ABだけである。
したがって
CDはFGと交わる。
よって
命題1ー30の補足(交線に平行な線)
が成立する。
- 命題1ー30の補足(交線に平行な線)
から
命題1ー31の補足(与点を通る平行線は唯一)
を導くことができる。
背理法の仮定として、
点Aを通り直線BCに平行な、
異なる2直線EF、GHがあったとする。
EF、GHは
Aで交わり、
EFはBCに平行であるから、
命題1ー30の補足(交線に平行な線)
により
GHはBCと交わる。
これは、
背理法の仮定に矛盾する。
よって
命題1ー31の補足(与点を通る平行線は唯一)
が成立する。
- 命題1ー30の補足(交線に平行な線)
と命題1ー31の補足(与点を通る平行線は唯一)
は同値である。
- 交わる2線分の
それぞれの垂線は交わる。
(以下、これを命題1ー31の補足2(交線の垂線)という。)
以下のように証明される。
線分ABとBCが
交わっている。
このとき、
背理法の仮定として、
もしDEとGHが交わらないとすれば、
線分ABの垂線DEと
線分BCの垂線GHは
平行となる。
命題1ー30の補足(交線に平行な線)
により
ABはGHと交わり、
命題1ー29(平行と錯角、内対角、同側内角)
により
ABはGHと垂直となる。
命題1ー28(内対角、同側内角と平行)
により
ABとBCは平行となる。
定義1ー23(平行(線))
により
ABとBCは交わらない。
これは
命題の仮定に矛盾するから、
背理法により
交わる2線分のそれぞれの垂線は
交わる。
- 命題1ー30の補足(交線に平行な線)、
命題1ー31の補足(与点を通る平行線は唯一)、
公準1ー5(平行線公準)
は同値である。
- 命題1-31補は、
直線BC、
点A[BC外]
に対して、
直線EF(A,EF‖BC);唯一
のことである。
- 命題1-31は、
直線BC、
点A[BC外]
に対して、
点D[BC]、
点E[∠DAE=∠ADC,ADについてCと反対側]、
点F[延長EA]、
直線(E,F)
をとれば、
EF‖BC
のことである。
-
命題1ー31の補足2(交線の垂線)
- 命題1-31補(与点を通る平行線は唯一)については推論用命題である。
前提 | 作図 | 推論 |
定義 | |
|
公準 | |
|
公理 | |
|
命題 | |
1-30補 |
その他 | |
背理法 |
- 命題1-31は作図用命題である。
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