ユークリッド原論をどう読むか(6)
頁末
前
次
目次
(6)はじめに
今回は、第3巻である。
趣は第1巻へと戻る。
この巻で扱う内容は、
円である。
第1巻から
指摘し続けているように、
原論では、
作図の可能性について、
つまり、
交点等が
存在し、
それをとることができる
ことについて
かなり直観的でおおらかである。
公理体系の無矛盾性に関する
数学の危機を体験した
現代数学との時代性の違いという
面も多分にあるだろう。
しかし、それを意識すればするほど、
また、
原論のもつ
公理論的指向性の先駆性を
改めて意識せざるをえないことになる。
今回の分に即していえば、
命題3ー8
において、
円外の点と
円周上の点とを
結ぶ線分をテーマとするが、
そこで
凹形の弧、
凸形の弧が登場する。
凹凸とは、
円外の点からみての凹凸である。
円外の点Dと
中心Mとをむすぶ線分が
円周と交わる点を
Gとし、
点Lが
凸形の弧の上にあるとする。
このとき、
凸形の弧GL上にある
点Kが
三角形DMLの内部にあると、
原論では
何の論証もなしに進んで行く。
図をかいてみると
確かにそのように見えるが、
果たして自明か?
そこのところを追究すると、
DとLを結ぶ線分は
凸形の弧とL以外では交わらない
ということが根拠となって、
Kが
三角形MDLの内部にある
ことが確定する。
こうした部分を
本論考において補足している。
また、
凹形の弧、
凸形の弧を明確に規定しようとすると、
円外の点から
円周にひいた
「接線」の接点
を避けることはできない。
ところが、
命題3ー8
以前には、
この「接線」のことは
触れられていない。
接線が登場するのは
命題3ー16
においてである。
こうした部分を
円と円とが接することを論じる
命題3ー6
において、
それ以前に論証されたことを
根拠として、
補足として論じた。
結果的には、
命題3ー16
以降の内容を
前以て
論じることになってしまった。
さて、
その円と接線、したがって半径を論じるときに
極めて重要な役割を演じるのが
命題1ー19
、
20
、
すなわち
三角形における
対応する辺と角との大小関係、
2辺の和と1辺との大小関係
である。
例えば、
命題3ー6の補足3、
4を
見ていただくとよい。
改めて
これら命題の意義を悟った次第である。
こうしたことに
注目しながら読んでいただくと、
原論の味わいも深まるように思う。
なお、
本文を読むに当たって、
次のことに留意いただきたい。
第3巻にあたり、繰り返しておく。
-
・印が付いている部分が解説である。
-
以下の命題において、
原典はギリシャ文字であるが、
通常のアルファベット(A,B,C)を用いる。
-
定義された用語、定義、公準、公理は
太文字で、
筆者が原論の本文を踏まえて、
補足して定義した
用語、定義の補足、公準の補足、公理の補足は
太斜体で、
記述している。
それぞれ定義・補足しているところでは
赤字で示している。
-
図は、
大阪府教育センターの教材コンテンツ「EG」を
用いて描いた。
-
特に、印をつけていない部分が、
ユークリッド原論の日本語訳で、
共立出版の中村幸四郎他訳
1996年6月25日付縮刷版第1刷による。
-
< >は
筆者による大まかな分類である。
前
次
目次
頁頭