ユークリッド原論をどう読むか(1)
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ユークリッド原論
第1巻
命題1ー7(3辺相等1)
(作図.底辺に対する他の2辺の交点)
一つの線分を底辺
として、
[それと]三角形をなす2線分に
それぞれ等しく、
同じ側にことなった点で交わり、
最初の2線分と同じ端をもつ
[ような]
他の2線分をつくることはできない。
-
線分は定義の補足(命題1ー1)による。
-
底辺は定義1ー20の補足2による。
-
三角形は定義1ー19の補足2による。
-
等しいは公理1ー7による。
-
同じ側は定義1ー7の補足による。
-
点は定義1ー3による。
-
交わるは定義1ー8の補足による。
-
三角形があって、
底辺と考える1辺以外の
2辺(2線分)について
考察している。
-
この命題は
次のように表現することができる。
「一つの線分を底辺として
三角形をなす2線分は、
それぞれ
その底辺に等しい線分と対応する端を共有し、
かつ、
その線分について同じ側において、
互いに他の端として共有しうる点を
ただ1つとることができる。」
こうすると、
作図用命題とみなせる。
(以下、命題1ー7の補足(作図.底辺に対する他の2辺の交点)という。)
もし可能ならば、
- 背理法の仮定である。
-
作図としては、
実際は不可能であるが、
敢えて可能であるとして
推論を進める
という意味である。
(以下、コメント2(命題1−7)
(もし可能ならば)という。)
同一の線分AB上に点Cで交わる
2線分AC、CB
が与えられ、
-
線分(A,B)、
C;点(AB外)、
線分(A,C)、
線分(C,B)
をとっている。
それとそれぞれ等しく同じ側に
ことなった点Dで交わり
同じ端をもつ
他の2線分AD、DB
がつくられ、
CAはDAに等しく同じ端Aをもち、
CBはDBに等しく同じ端をもつ
ようにされ、
-
D;点(C外、ABについてCと同じ側)、
線分(A,D)=AC、
線分(D,B)=CB、
をとっている。
CDが結ばれた
とせよ。
- 公準1ー1(作図.直線)
による。
-
線分(C,D)
をとっている。
-
Dの位置が、
線分ACについて
Bと同じ側か反対側か
と同時に、
線分BCについて
Aと同じ側か反対側か
の4通りがある。
Dが、
線分ACについてBと同じ側で、
線分BCについてAと反対側である
ことと、
Dが、
線分ACについてBと反対側で、
線分BCについてAと同じ側である
ことは、
CとDの記号を付け替えれば同じであり、
Dが、
線分ACについてBと同じ側で、
線分BCについてAと同じ側である
ことと、
Dが、
線分ACについてBと反対側で、
線分BCについてAと反対側である
ことも、
CとDの記号を付け替えれば同じである
から、
Dが、
線分ACについてBと同じ側で、
線分BCについてAと反対側である
場合と、
Dが、
線分ACについてBと同じ側で、
線分BCについてAと同じ側である
場合とを論証すればよい。
そこで、
Dについて
線分ACでBと同じ、線分BCでAと反対になる場合
線分ACでBと同じ、線分BCでAと同じになる場合
に場合分けする。
この図は、
線分ACでBと同じ、線分BCでAと反対
になる場合である。
そうすれば、
[線分ACでBと同じ、
線分BCでAと反対になる場合]
ACはADに等しい
から、
角ACDも角ADCに等しい。
-
前節、
命題1ー5(2等辺三角形の底角)
による。
-
∠ACD=∠ADC
となっている。
それゆえ
角ADCは角DCBより大きい。
-
角ACDは角DCBより大きく、
角ADCは角ACDに等しい
ので、
公理1ー8の補足2(等より大・小、大・小に等)
による。
-
∠ADC>∠DCB
となっている。
したがって
なおさら
角CDBは角DCBより大きい
【・・・(1)】
。
- 角CDBは角ADCより大きく、
角ADCは角DCBより大きいので、
公理1ー8の補足3(大きい・小さいものより大きい・小さい)
による。
-
∠CDB>∠DCB
となっている。
また、
CBはDBに等しい
から
角CDBも角DCBに等しい。
-
前節、
命題1ー5(2等辺三角形の底角)
による。
-
∠CDB=∠DCB
となっている。
ところが、
それよりなおさら大きいことも証明された。
-
(1)
による。
-
∠CDB>∠DCB
となっている。
これは不可能である。
- 背理法による。
- 以下、
線分ACでBと同じ、
線分BCでAと同じになる場合
ACはADに等しい
から、
角ECDも角FDCに等しい。
- 命題1ー5(2等辺三角形の底角)
による。
-
∠ECD=∠FDC
となっている。
それゆえ
角FDCは角BCDより大きい。
-
角ECDは角BCDより大きく、
角FDCは角ECDに等しい
ので、
公理1ー8の補足2(等より大・小、大・小に等)
による。
-
∠FDC>∠BCD
となっている。
したがって
なおさら
角BDCは角BCDより大きい
【・・・(2)】
。
角BDCは角FDCより大きく、
角FDCは角BCDより大きい
ので、
公理1ー8の補足3(大きい・小さいものより大きい・小さい)
による。
-
∠BDC>∠BCD
となっている。
また、
CBはDBに等しい
から
角BDCも角BCDに等しい。
-
前節、
命題1ー5(2等辺三角形の底角)
による。
-
∠BDC=∠BCD
となっている。
ところが、
それよりなおさら大きいことも証明された。
-
(2)
による。
-
∠BDC>∠BCD
となっている。
これは不可能である。
[
したがって、
2つの場合の結果から
不可能であるとわかる。]
〔よって〕
一つの線分を底辺
として、
三角形をなす2線分にそれぞれ等しく、
同じ側にことなった点で交わり、
最初の2線分と同じ端をもつ
他の2線分をつくる
ことはできない。
- 他の命題のスタイルと合わせるとすると、
〔よって〕が必要であろう。
これが証明すべきことであった。
-
命題1ー7の証明に
ギャップがある
ことは
これまでも指摘されてきた。
命題1ー5(2等辺三角形の底角)
の中に、
二等辺三角形の底角が等しいことの証明において、
底辺の下の角に注目している
ことを考慮すると、
ユークリッドも分かっていた
が、
命題1ー7をきちんと訂正せずに
きてしまった
のではないかと思われた。
ところが、
「ユークリッド『原論』とは何か(斎藤 憲)」
によれば、
すべての場合を尽くさずに
1つの場合のみ証明するのが
原論のスタイルである
ということである。
なるほどそうかとも思われる。
- 命題1-7は、
△ABC
に対し、
D;線分AD=AC、
線分BD=BC、
ABについてCと同じ側
ならば、
D≡C
のことである。
-
命題1ー7の補足(作図.底辺に対する他の2辺の交点)
前提 | 作図 | 推論 |
定義 |
|
|
公準 |
|
|
公理 |
|
|
命題 |
|
1-7
|
その他 |
|
|
- 命題1-7は推論用命題である。
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