ユークリッド原論をどう読むか(1)
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ユークリッド原論
第1巻
命題1ー4(2辺挟角相等)
「なぜならもし」
もし
二つの三角形が
2辺が2辺にそれぞれ等しく、
その等しい2辺に
はさまれる角が等しい
ならば、
底辺は底辺に等しく、
三角形は三角形に等しく、
残りの2角は残りの2角に、
すなわち
等しい辺が対する角は
それぞれ等しい
であろう。
ABC、DEFを
2辺AB、ACが2辺DE、DFに、
すなわち
ABがDEに、ACがDFに
それぞれ等しく、
かつ
角BACが角EDFに等しい
二つの三角形
とせよ。
-
△ABC、△DEF
;(AB=DE、AC=DF、
∠BAC=∠EDF)
となっている。
底辺BCは底辺EFに等しく、
三角形ABCは三角形DEFに等しく、
残りの角は残りの角に、
等しい辺が対する角はそれぞれ等しい、
すなわち
角ABCは角DEFに、
角ACBは角DFEに等しい
であろうと主張する。
三角形ABCが三角形DEFに重ねられ、
-
原論に特徴的な
動かして重ねる
ことで論証する証明法である。
上に重ねて描く
と
結局、重なるようにしか描けない
ことを論証している
と見ることもできる。
点Aが点Dの上に、
線分ABがDEの上におかれれ
ば、
-
定義1ー4により
おくことができる。
-
上に重ねて写すという観点からは、
次のように読み替える。
点A'を
Dに重ねてとり、
線分A'B'を
半直線DEに重ねてとる。
-
A≡D
となっている。
ABはDEに等しい
から、
点BもEに重なる
であろう。
【・・・(1)】
-
公理1ー7による。
-
重ね書きと見る場合には、
命題1ー3(作図・等しい線分を切り取る)
により、
半直線DE上に、
DB'=ABとなるように
B'をとる
ならば、
DE=ABである
から
E≡B'
となっている。
-
B≡E
となっている。
また、
ABがDEに重なる
とき、
角BACが角EDFに等しい
-
命題の設定による。
-
∠BAC=∠EDF
となっている。
から、
線分ACもDFに重なる
であろう。
-
前節、
公理1ー7による。
-
重ね書きと見る場合には、
直線上に等しい角を描くのは、
命題1ー23(作図・直線上に指定された角)
によるから、
ここでは、
原理的に仮想的に
推論する
ことになる。
AからBを見て、
Cがある側に、
A'からB'を見て、
C"がくるように、
角B'A'C"を
とる。
線分A'B'(DE)について
C"が、
Fと同じ側か
異なる側か
どちらかになる。
同じ側とする
ならば、
∠BACと∠EDFが等しい
から、
公理1ー7(等しい)
により
半直線A'C"
は
半直線DFの上に重なってとられる。
異なる側とする
ならば、
何も書かれていない所に
半直線A'C"をとる。
が、
公理1ー7(等しい)
により、
この半直線A'C"以外には書きえない。
-
半直線AC≡DF
となっている。
それゆえ、
ACがまたDFに等しい
から、
点Cも点Fに重なる
であろう。
【・・・(2)】
-
前節、前々節、
公理1ー7による。
-
重ね書きと見るならば、
半直線A'C'が
半直線DFの上に重なってとられた
ならば、
命題1ー3(作図・等しい線分を切り取る)
により
A'C'=ACとなるように
C'をとると、
DF=ACであったから
C'≡Fとなる。
異なる側にかいて
何も書かれていない所に
半直線A'C'をとった
ならば、
命題1ー3(作図・等しい線分を切り取る)
により
この半直線上に
A'C'=ACとなるように
C'をとると、
C'の位置はここ以外には
なりえない。
-
C≡F
となっている。
ところが
点BもすでにEと重なっている。
したがって
底辺BCは底辺EFに重なる
であろう。
なぜならもし、
-
「なぜならもし(for if)」と、
背理法を伴って
根拠を後に述べるスタイルが、
ここに初めて登場する。
原論では、
このスタイルはあまりない。
後世の注釈の混入
と考えられている。
以下、コメント(命題1ー4)(なぜならもし)という。
BがEに、
CがFに重なっている
のに、
底辺BCがEFに重ならない
ならば、
- 背理法の仮定である。
原論では
ここに背理法が初めて登場する。
-
BC¬≡EF
となるならば
ということである。
2線分が面積を囲む
ことになるであろう。
これは不可能である。
それゆえ
底辺BCはEFに重なり
それに等しくなる
であろう。
したがって
三角形ABC全体も三角形DEF全体に重なり
それに等しくなる
であろう。
- 合同であるということである。
-
重ね書きと見て、
∠BACを
線分A'B'(DE)について
同じ側に書いた
とすれば、
ここまで
まったく同様である。
異なる側にかいて
何も書かれていない所に
半直線A'C'をとった
とすれば、
C'の位置はただ1点に限定された
から
公準1ー1(作図.直線)
により、
B'とC'を結ぶ
ならば、
描かれる三角形はただ1つしかありえない。
ここで、
この三角形を、
A'B'を軸に折り返す
と、
本命題の推論
により、
2つの三角形がまったく重なる。
-
△ABC≡△DEF
となっている。
そして
残りの角も残りの角に重なり
それと等しくなる
であろう、
すなわち
角ABCは角DEFに、
角ACBは角DFEに等しくなる
であろう。
-
今日であれば
合同であるといえば、
敢えてこの部分を述べることはしない。
したがって、
合同という概念が確立しきっていない
と見ることができる。
-
∠ABC=∠DEF、
∠ACB=∠DFE
となっている。
よってもし
2つの三角形が
2辺が2辺にそれぞれ等しく、
その等しい2辺に
はさまれる角が等しい
ならば、
底辺は底辺に等しく、
三角形は三角形に等しく、
残りの2角は残りの2角に、
すなわち
等しい辺が対する角は
それぞれ等しい
であろう。
これが証明すべきことであった。
-
重ねて合わせることによって、
あるいは、
重ねて上に描くことによって
証明している。
この証明法が
ここに原論で初めて登場している。
- 命題1ー3で、
直線は
どこにでも写せる
ことが確認できた。
直線が写せれ
ば、
定義1ー10により、
定義され
公準1ー4により、
確定される
直角を写すことが
理念的にしたがって仮想的にできる。
したがって
角も写すことができる。
と想定される。
その結果、
重ねあわせが
原理的に可能である
ことが、
命題1ー3までで確認されている
とみることもできる。
なお、
直角や等しい角が
現実的に作図できることは、
仮想的な論証を前提にして、
後に、
命題1ー11(作図・線分からの垂線)、
命題1ー23(作図・直線上に指定された角)
で示される。
-
いわゆる
裏返しの場合は明示的には
示されていない。
重ね書きと見ると、
AからBを見て、
Cのある側に。
DからEを見て、
Fがない場合、
最後に折り返すこと
により、
本命題の推論を繰り返して、
全く重なる
ことを論証する。
命題1ー3(作図・等しい線分を切り取る)
を用いるなど、
手順が明確なだけ、
重ね書きと見る方がよい
であろう。
-
命題1-4は、
△ABC、DEF
に対して、
AB=DE、AC=DF、
∠BAC=∠EDF
ならば、
△ABC≡△DEF
のことである。
-
命題1-4は原論最初の推論用命題である。
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